自分の人生をふりかえると、誰にでも懐かしい音楽があるはずだ。CDの棚をのぞいていたら、大学時代に聞いたヴァン・モリソンのCDがあったので、さっきからくりかえし流している。当時の心象や風景が脳を刺激している。あのときあんな思いでこの曲を聴いていたな。 ヴァン・モリソンの「ASTRAL WEEKS」はいいアルバムだよ。心の奥を揺さぶるような歌もさることながら、伴奏するアコースティック楽器が低くうねりながらジャズの雰囲気をかもし出す。大学時代はこのCDを宝物のようにしていたっけ。何度も何度もくりかえし聴いていた、眠るときの子守歌にもした。 失恋のときは決まってテーマソングを選び慰めてもらっていた。いくつもの失恋ソングがあることやら。思いおこせばこっけいな習慣だったかもしれない。しみじみとするためにわざわざ電源をつけて、CDをセットして、再生して・リピートして。そんな状態だからこそ音楽のひとつひとつの音や歌に震えるほど感動したものだ。 体が動いていれば水を欲するように、音楽をほしくなるときもあるものだ。日曜の夜はとりわけ音楽が心にしみる。周囲の静けさがそうさせるのだろうか。古い友人に会ったかのように、懐かしい曲を聴いている。あいかわらず、みずみずしい姿で旧友は心を洗い流してくれる。 音楽の趣味がぴったりあう人はいない。しかし、人が自分の好きな音楽を楽しそうに語ることほど、こちらを幸福にさせることはない。ことばが音楽のように響いてくるから不思議なものだ。音楽をめぐる単語の多くにはイメージが息づいていると思う。音符のオタマジャクシ♪でさえも生きているかのようだ。 今夜は幸せだったかもしれない。旧友が変わらぬ歌声をきかせてくれたし、懐かしい心象が遠い過去から訪れてくれたので。怪奇現象にはしたくないが、今夜は空からオタマジャクシが降ってきてくれた。